持分の定めのない法人 

国税庁の定めた次の通達があります。

昭和39年6月9日付(平成30年7月3日付改正分まで更新)(平成20年12月1日以後に行われた贈与等の取り扱い)贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合の取り扱いについて

この13項では

相続税法第66条4項に規定する「持分の定めのない法人」とは、例えば次に掲げる法人をいうことに留意する。

(1)定款、寄付行為若しくは規則…法令の定めにより…当該法人の社員、構成員…が当該法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払い戻し請求権を行使することができない法人。

(2)定款、寄付行為、若しくは規則…法令の定めに、社員、構成員が当該法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払い戻し請求権の行使をすることができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人。

この通達の対象となる法人は、定款、寄付行為の定めの中に「出資」に関する事項がない法人と考えればよいと思います。一般的には、医療法に規定する医療法人、私立学校法に規定する学校法人がそうでしょう。

あまり知られていないと思いますが、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下 一般社団法人等の法律といいます。)の規定により設立される一般社団法人、一般財団法人(以下 一般社団法人等といいます。)も、定款には「出資」に関する定めを記載する必要がありません。また、剰余金、残余財産の分配をすることが禁止されています。

一般社団法人等は、「持分の定めのない法人」であるということになります。

株式会社は株式を発行して資金を調達しますから、「出資」があります。株式は財産になりますから贈与、相続をする対象になります。これがないとどうなるでしょうか?

そうです、贈与、相続ができません(ありませんといったほうがよいでしょうか)。

ということは、

一般社団法人等の経営者は、贈与税、相続税を心配する必要がないということです。

これは考え方なんですが、株式を持っていれば配当がもらえるし、処分してお金を手に入れることもできるわけですから、それなりに豊かな生活ができますよね。配当なし、処分してお金も手に入らないのでは魅力がないよ、とも言えますよね。

では、一般社団法人等は、どのように活用すればよいと思いますか。

私なりに考えますと、次のように活用できるのではないかと思います。

信託の受託者になる

高齢となった親の財産を管理する。2代、3代先の財産の移転を自分の思ったように指定する。というようなことをするのに便利なのが「信託」であると思います。自然人が受託者になると死亡ということが生じますが、一般社団法人等が受託者になると、そのことを心配しなくてもよいのです。

持分会社とする

一旦、特定な株式会社の株式を所有すれば、相続がないので株式の分散を防ぐことができます。安定多数の株式を所有すれば、議決権の行使で混乱が生じることがありません。

不動産の所有会社とする

先祖代々の土地を引き継いできた方々は、相続があるごとに財産が分割されてしまいますので、将来的に同一規模で財産を維持するということは困難になっています。この財産を一般社団法人等に譲渡してしまえば、これ以降は同一規模の財産を維持することができます。

一般社団法人等は法人とする(一般社団法人等に関する法律第3条)。

一般社団法人等は普通法人とする(法人税法第2条9号)。

ということですから

株式会社と同様に損益計算を行い、所得が生じれば法人税等を支払うということになります。

ところが

相続税法第66条4項、同66条の2では一定の条件に該当する場合には、一般社団法人等を個人とすると規定しています。贈与税、相続税を課するとしています。ですが、相続税法では、相続税、贈与税の納税義務者は「個人」であると規定しています(相続税法第1条の3、第1条の4)。ですから法人には相続税、贈与税を課税することはできないことになっています。

法律で法人と規定しているものを、別の法律で個人とするということですから、すごいと思いませんか?

相続税法は他の法律に優先して適用できるということなんでしょうね。でもそのような法律の規定は探しても見つかりませんでした。

普通法人が無償で資産を譲り受けた場合には益金とする(法人税法第22条)。ということですから、個人から法人へ贈与した場合には法人税が課税されることになります。同時に法人へ贈与税が課税されます。これって2重課税じゃないですか?受贈益の益金不算入の規定(法人税法第25条の2)はありますが、個人からの贈与は対象になっていません。

所得税法では、個人が相続、遺贈、個人からの贈与により取得したものは所得税を非課税としています(所得税法第9条1項16号)。相続税、贈与税が課けられたものは所得税の課税対象から除外しています。個人から法人への贈与については、所得税法第59条では、時価で法人へ譲渡があったものとして所得税を課するとしています。これも2重課税ということでしょうか?どのように思われますか?

個人から法人への財産の移転については、問題があるようですね。気を付けましょう。

相続税法第66条4項の適用については、相続税法施行令第33条で細かく規定しています。主だったところを1つだけ取り上げてみましょう。

理事の構成員が親族等で3分の1以下とするという定めが定款に記載されていれば、一般社団法人等に贈与税を課税しない、とされています。

一般社団法人等を活用する目的が、信託の受託者とする、持ち株会社とする、財産の所有管理者とするということであるとすれば、親族等が3分の1以下では目的達成が困難になってしまいます。贈与は止めたほうが良いと思います。

譲渡するのが良いと思いますよ。

建物は未償却残高あるいは固定資産税評価額を、土地は相続税評価額を参考にして譲渡価額を決めれば良いと思います。この場合、時価の2分の1以下で価額を決めるのは止めたほうが良いと思います。時価で売買があったとされるからです(所得税法59条)。譲り受けた資産の代金の支払いが一時に工面できなければ、契約書に支払方法を記載して無利息での分割払いにすることをお勧めします。譲り受けた資産の賃貸収入から支払っていけばよいでしょう。

譲渡した個人に相続が発生すれば、分割払いとした場合には、未回収の金額は貸付金となりますから相続財産となります。貸付金の価額は、どのように評価すればよいのでしょうか。

相続税法第22条では、財産の価額は相続発生時の時価により評価する、控除すべき債務の金額はその時の現況により評価する と規定しています。財産評価基本通達204では元本の価額は返済されるべき金額と定めています。

裁決事例では、平成19年4月26日裁決(裁決事例集第73集442頁)がありますので、本文の中から、判断材料となるものを抽出して、ご紹介します。

控除すべき債務が弁済すべき金額の確定している金銭債務の場合であっても、その弁済すべき金額が当然に当該債務の相続開始時における消極的経済価値を示すものとして課税価格算出の基礎となるものではなく、金銭債権について、その権利の具体的内容によって時価を評価するのと同様に、金銭債務についてもその利率や弁済期等の現況によって控除すべき金額を個別的に評価しなければならないものであり、控除すべき債務の金額は必ずしも常に当該債務の金額と一致するものではない。そして、無利息で預託されている金銭債務であれば、これを承継した相続人は通常の利率(裁決では、基準年利率を適用しています。筆者注)による利息相当額の経済的利益を弁済期が到来するまでの期間享受することとなり、その享受する経済的利益の相続開始時における現在価値に相当する額だけ相続または遺贈により取得した経済価値の減殺要因が小さくなることから、無利息債務の相続開始時の評価額は、通常の利率と弁済期までの年数から求められる複利現価率を用いて相続開始時現在の経済的利益の額を計算し、無利息債務の元本額からこの経済的利益の額を控除した金額とすることが相当である。

この事例は、借地権が設定されている土地について、約50年後に到来する返済期限の預かり保証金を、相続時にいくらと評価するのかを判定したものです。

分割払いの貸付金についての評価も、裁決事例と同様に現在価値で行う必要があると思われます。分割払いの評価は、定期金の評価方法を採用すればよいと思いますのでご紹介します。

相続税法第24条1項1号ハでは、

元本の現在価値相当額は、1年あたりに給付を受ける金額に、契約に係る予定利率による複利年金現価率を乗じて得た金額 としています。

予定利率については財産評価通達200-6で説明していますが、更に、平成22年7月1日付評価官情報4で、(注)として、「予定利率が明らかでないときは基準年利率等の合理的な利率を用いて予定利率による金額を計算することが考えられる」と説明しています。

貸付金残高1億円、残りの返済年数20年(1年当たり500万円の返済額)、基準年利率0.25%とした場合の複利年金現価率19.484で評価しますと次のようになります。

500万円×19.484=97420千円

ということになります。長い前置きでしたが、よろしかったでしょうか。

次に、

相続税法第66条の2についてです。

一定の条件に当てはまる場合には一般社団法人等に相続税を課するということです。

一定の条件とは

1. 理事が死亡した時に、その者との親等が3親等以内の理事が、死亡した理事を含めて2分の1を超えるとき(死亡した理事を含めて理事3名の場合は2名と考えればいいと思います。)。

2. 理事が死亡する前5年以内に3年以上3親等以内の理事が2分の1を超えるとき。

というものです。

どちらかに該当すれば、まず、一般社団法人等が所有する財産について、相続税評価による純資産価額を算出します。次に、残った3親等以内の理事の人数に1を加えた数で、この純資産価額を除した金額を出します。この金額から基礎控除額の3000万円を控除して、残りの金額に、該当する相続税率を乗じて得た金額を1.2倍した金額が納める税額ということになります(一般社団法人等は、法定相続人ではありませんから相続税法第18条による2割加算が適用されます。)。

ちょっと計算してみます。

理事3名のうち1名が死亡、残りの2名が3親等以内の理事、純資産価額1億5千万円とした場合

1億5千万円×1/3=5千万円

5千万円ー3千万円=2千万円×15%-50万円=250万円×1.2=300万円

となります。

これを法定相続人2名が相続したとして相続税額を計算してみます。

1億5千万円ー3000万円ー600万円×2=1億800万円

1億800万円×40%-1700万円=2620万円

となります。

一般社団法人等にすれば、相続税が安くなるの?意外な結果だね~。

ということを考えますか?どうでしょう。

よくよく考えてみると

理事である者が死亡した場合には、相続税法第66条の2が適用されるということですから、理事になる者を高齢者ではない者とすればよいのではないか?

一般社団法人等の法律66条では、理事の任期を2年としていますので(更新は可能だと思います。)理事が高齢となったときには退任してもらい、高齢でない者に交代すればよいのではないかと思います。そうすれば理事の全員が3親等以内でもよいのではないかと思います。

いかがでしょうか。おしまい。