持続化給付金の返還

個人の事業所得者が、持続化給付金を得た場合には事業所得の雑収入として所得税の申告を行う必要があることはご存知のとおりです。

では、翌年以降に何らかの事情によりこれを返還した場合は、所得の計算はどのようにするのでしょうか?

思いつくのは、①受け取った年の所得が多かったということで、受け取った年分の所得を減らしてそれに応じた税額を返してもらう更正の請求をしたらいいのではないか。②返した年の経費として申告すればいいのではないか。ということであると思います。

更正の請求は認められるでしょうか?

更正の請求ができるためには、所得税法及び国税通則法の規定に当てはまる事実があるのかを確認する必要があります。所得税法152条の規定は事業所得者は適用されないため、この条文を根拠として国税通則法23条1項を適用して更正の請求をすることは無理があると思います。また、国税通則法23条2項は事業所得者は適用されないことになっていますから、これを適用して更正の請求を行うことは無理があると思います。なんでかな?

所得税法では、次のところで説明していますように、必要経費として処理できる規定があるのでこの規定を適用すればよいのであって、国税通則法を適用して更正の請求をする必要がないということのようです。東京高裁昭和61年7月3日判決では次のように述べています。

「所得を生じた経済的成果が、その行為の無効であることに起因して失われたときは、その損失の生じた日の属する年分の必要経費に算入すべきものであるから、無効な行為がなされた日の属する年分の課税標準及び税額に何らの変動を及ぼさない。」

所得税法の規定は次のようなものがありますから、これを適用して所得計算をすればよいということになります。

所得税法では37条で、通常の必要経費とならないものについて「別段の定め」を規定しています。

所得税法51条2項では、次のように規定しています。

…その他政令で定める事由により生じた損失の金額は、…必要経費に算入する。

これを受けて、所得税法施行令141条3号では、「無効な行為により生じた経済的成果がその無効であることに起因して失われたこと」 と規定しています。

この規定の適用について、東京地裁平成22年12月17日判決では次のように述べています。

「所得税法51条2項、同法施行令141条3号の規定は、無効な行為により生じた経済的成果も課税の対象とされることを前提に、後日それが失われた場合には、必要経費の算入により、これに対応した税額の調整を行うこととしているものである。」

この裁判は、医者が社会保険診療報酬を不正請求した金額を返還する必要ができて、その年の返還金(仮に7000万円とします)が必要経費になるのか、返還すべき金額(仮に4億円とします)が必要経費になるのか等を判決したものです。その年に支払った7000万円を必要経費とするとされました。未払の金額は翌年以降の支払った年に必要経費とすることとされました。

ということで、返還した年の必要経費で申告すればどうでしょうか。